
多くの人が一度は悩まされたことがあるであろう腰痛。
ヘルニアだとかすべり症だとか、筋肉が硬いだとか原因はいろいろありますが、実は腰痛の多くは原因がハッキリしていません。
検査をしたりレントゲンを撮ったりしても原因がわからない。
そのような腰痛を非特異的腰痛なんていいます。
非特異的腰痛のなかでも意外と多いのが心因性の腰痛です。
今回はそんな心因性腰痛に悩まされ、あらゆることに手を出した放浪記をご紹介します。
- 腰痛においてあらゆる治療は逆効果になる場合もある
- 心因性とはどういうものか
- 心因性腰痛でのセラピー例

本書は著者である夏樹静子さんの、腰痛との日々を綴った体験記です。
その苦悩とたくさんの人との関わりは本書を読んでみていただくとして、この記事では本書を参考に「心因性とはなんなんだ」ということを考えてみたいと思います。
ちょっと本書の内容とは逸脱しますが、ご了承ください。
夏樹静子
73年、『蒸発』で日本推理作家協会賞、89(平成元)年に仏訳『第三の女』でロマン・アバンチュール大賞、2006年、日本ミステリー文学大賞を受賞。
目次
たくさんの治療院を放浪する
じわじわと原因不明の腰痛が出現していき、次第に横になっても痛みに悩まされていった夏樹静子さん。
何か解決の糸口にならないかと、たくさんの治療を試しました。
整形外科、鍼灸院、整体院、気功、あらゆる治療院に行こうとも一向に改善しない。
それぞれの治療院で言われることもバラバラで、筋肉が弱っているだの骨がずれているだの、アレがいいだのコレがいいだの、それはもうたくさんの原因とアドバイスを各治療院の先生から伝えられました。
なんでみんな言うことが違うのか。
結局のところ原因不明の非特異的腰痛のため、先生によって見立てが変わります。
姿勢を見るのが得意な先生なら姿勢から原因を考えるでしょうし、東洋医学の観点から原因を考える先生もいます。
画像や検査でわかる腰痛なら原因がハッキリするため共通の意見となるでしょうが、西洋医学的に原因がハッキリしないものには、各々の先生の知識と経験から導き出された答えによってアプローチ方法やアドバイスが変わります。
●逆効果になることもある
原因がわからないから「解決」という当たりくじを引くまで、さまざまな治療院に行く。
これは逆効果になる可能性があります。
おそらくどの治療院でも患者さんが早くよくなるよう試行錯誤しながら治療をし、その先生の経験や知識から患者さんに適確と思われることが伝えられます。
ただし、その伝えられることが多くなるほど混乱していき、一体どこに正解があるのか迷いの沼にはまっていきます。

痛みが慢性化しているものは1回や2回じゃ変化がない可能性があるため「これであっているのかしら?」と疑問を抱きがちですが、続けることで変化が現れていくこともあります。
慢性痛と心因性の痛み
単純に筋肉が硬いとか体の使い方が悪いとかであれば、マッサージで筋肉を緩めたりピラティスなんかで体の使い方の修正をしていったりすれば改善するかもしれません。
しかし慢性化している痛みには、ある要因がくっついていることが多い傾向があります。
それが、精神的な要因(心因性)です。
●心因反応の図式
ごく初期の心因反応は、①心因→②心因に対する反応→③症状発現という図式をとりますが、これが長期化してくると、①②の部分がふっとんでしまって、症状のみが出現しているように見えてきます。(中略)自分の意志とか感情を無視したところで、勝手に症状のみが出現するわけです。
仕事に行くと痛みが出る、イライラすると痛みが出る。
これらのように、なにかきっかけがあって症状が出るというのが初期の状態だといわれていますが、これが長引くと「ずっと痛い・・」という状態に変化します。
気持ちもその状態に対し敏感になり、少しでも痛みが出ると気持ちが落ち込み、さらに痛みが悪化していく悪循環。
心因性の痛みの場合、この悪循環からどう抜け出すかがキーとなります。
●慢性痛と心因性の痛みの特徴
慢性痛の場合、痛みの長期化などの影響で交感神経が優位になり、痛み以外の症状も出現します。

心因性との違いは交感神経が優位になることで血流が悪くなり、筋肉が硬くなったり冷えたりなどの不定愁訴が存在します。
この場合、少なからず触ってみると「こってるなあ」という感覚があるのですが、心因性の場合はその手応えがなかったりします。
- 気分が晴れない日が続く
- 楽しいと思っていたことが楽しくなくなる
- 痛みに対する不安が強い
このような抑うつ症状が多くある場合が心因性による痛みです。
慢性痛なのか心因性の痛みなのかと分けるというより、どちらの要因が強く出ているかでアプローチの仕方が変わります。
心療内科という選択肢
慢性痛と心因性の痛みは深く関係していて、心因が強い場合は外部からの治療(マッサージとか鍼とか)では効果が薄い場合があります。
本書で登場する腰痛という症状、基本的には筋骨格系の問題なんじゃないかと疑われます。
しかし、心因が強い場合は筋骨格系へのアプローチではなく、考え方に対するアプローチが重要になります。

『腰痛放浪記』の著者、夏樹静子さんの場合、鍼や運動などの腰に対するセラピーによって、逆に意識が腰へと集中したことが悪化させた要因なのではと本書を読んでいて思いました。
もしもどの治療院へ行っても「心因性ですね」みたいなことを言われた場合、心療内科も選択肢の一つに入れてもいいかもしれませんね。
『腰痛放浪記』を読んでみて
本書は夏樹静子さんが実際に体験し、その当時の心情も詳細に書かれた本になります。

約3年間、原因不明の激しい腰痛と格闘されたわけですが、本当に大変だったと思います。
ぼくは職業柄、腰痛の人をよくみます。
基本的には筋骨格を対象にするのですが、本書を参考に心因の腰痛についてもっと勉強しようと思いました。

おわりに
典型例という言葉を使用するのが正しいかわかりませんが、夏樹静子さんが体験されたことは一つのモデルとして知っておくといいかもしれません。
「どこに行ってもよくならないんだけど」という人はもしかすると、そもそもアプローチする対象が間違っている可能性があるからです。
ぼくも心因がどれほどその症状に影響を与えているのか、カウンセリング時にある程度は把握できるように勉強していこうと思いました。
とてもいい本。
最後はちょっと感動しますよ。
- 原因がハッキリしない腰痛持ち
- ドクターショッピングをしている人
- セラピスト